白い皿の上には、白い頂が、少しだけ誇らしげにそびえていた。
イカは、磯の香りを損ないように、パウロのオリーブ油で炒められ、上から少量かけられている。
カリフラワーの甘みを抽き出したムースが下に敷かれ、薄切りにし、軽く加熱して上に置かれたカリフラワーが、自身の優しい香りとほのかなエグミを伝えてくる。
それらを一緒に食べる。
ああ、どうしたことだろう。
途端にイカが、色っぽく笑うではないか。
味わいがエレガントに変化し、隠し持っていたエロスを、じわりじわりと舌の上に乗せて、心を溶かすではないか。
「君と出会えてよかったよ」と、イカがもだえている。
僕らはなす術も無く、何度も皿から顔上げては、ため息をつき、微笑んだ。
イカとカリフラワー。
どこにでもある二つの食材から奇跡を生み出したシェフに会った。
組み合わせとキュイソンの妙を聞きたかったが、理論的な答えを聞くのが怖くて、聞けない。
夢から覚ましてほしくない。
しかし聞けば、おそらく彼は、その穏やかな目を輝かせて、静かに言うのだろう。
「いいえ、イカとカリフラワーが導いてくれたのです」。
料理の凄みに、久しぶりに震えた。
「パッサージュ53」佐藤伸一氏のスペシャリテ「イカとカリフラワーの白いお皿」