「今日はいいアマダイがはいりました」。
そう言って森川さんは、堂々たる体躯の甘鯛をまな板にのせた。
一塩されて運ばれた甘鯛は、自らの体を誇るかのように輝いて、色っぽい。
青い自然のアイシャドーが、気品と艶をにじませる。
目の前でさばかれ、身は焼かれ、頭は出汁をとる。
頭だけでとられた出汁を器に張り、焼いた身をそっと沈める。
身は熱々の出汁に入ってほどよい火加減になるよう、精妙に計算されて焼かれていた。
口に運べば、ああ、品がよく、そしてどこかじれったい甘みが広がって、胸を焦がす。
皮の凛々しい芳ばしさと対を成す、身のまろやかな味わいが、心を溶かす。
時間がゆるりと進み、薄桃色の幸せが、体の底からせりあがってくる。
命の滴をいただくありがたみに、涙がにじむ。
1月の「祇園浜作」にて。
甘鯛
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