とんかつ自伝 Vol6

食べ歩き ,

御三家、煉瓦亭で資金がつき、ブランクは空いたが、カツ道研究は続いた。

なにより一人で研究活動ができるのがよい。

一人でご馳走、一人饗宴が気軽に出来るのは、とんかつだけである。

などと一人悦に入りながら、新しいとんかつ屋を巡った。

浅草では、「河金」百匁(380グラム)カツを平らげ、「すぎ田」に腰抜かし、「喜多八」「ゆたか」のヒレカツに、昔の匂いを嗅いだ。 

なくなった店も多い。「河金」もそうだし、食通には評判悪いがよく出かけた、焦げ気味で揚げる表参道「かつ一」、安藤鶴夫が紙トンカツと命名した青山「種長」の大カツ。

痩身のご主人が揚げるカツが懐かしい、門前仲町「浪花亭」

おばちゃんが中華鍋で揚げる、廉価で東京トップクラスのとんかつに出会えた、錦糸町「ひら井」・・・。

いまさらながらに数えてみると、全国九十軒くらいだろうか。

意外に少ない。

体系的には衣で分類する。

東京に多い衣トゲトゲ系、やや粗いサクサク系、きめ細かいカリリ系、大阪に多い色白系と四体系。

東京50軒の調査では、トゲ14軒、サク15軒、チリ21軒となった。

ただし「ぽん多」をトゲ系ではなく、色白系に分類するか意見の分かれるところである。

トゲ系の代表は「燕楽」。

サク系は「煉瓦亭」。

チリ系は「すぎ田」かな。

どの体系がいいということではなく、肉の厚みとのバランス、切り方が計算されて衣が選ばれているかという点が、味に影響する。

御三家、煉瓦亭をのぞいて 鮮烈に残る出会いは、人形町「キラク」、浅草「すぎ田」、新橋「燕楽」、赤坂「フリッツ」、神戸「もん」、上野「平兵衛」、自由が丘「丸栄」である。

中でも驚かされたのは「平兵衛」と「丸栄」であった。

前者は、油に入れたカツから音が出ない。

泡が出ない。

低温で三十分、茹でるように揚げるのである。そ

のため肉はしっとりと、油の匂いが入り込むことなく仕上がる。

ただし衣はカリッといかない。

「丸栄」も目を疑った。

店主は衣をつけたカツを、なにも入っていない鍋に直置きしたのだ。

しかるのち鍋肌からラードを滑り込ませ、やがて液体となるが、カツは半身浴。

固唾を呑んで展開を見守ったカツは、衣はカリカリと肉は甘いジュースたっぷりで、豚のタルトとでも名づけたいカツである。

世の中にはうまいとんかつが溢れている。

銘柄豚が増える時代であり、新たな魅力を持ったとんかつも現れよう。

あとは我々がいかに食べるかである。

長年のとんかつ人生で試行錯誤し、「牧元流とんかつ作法」の家元を務めることになったいま、日々の鍛錬は欠かせない。

どこから食べるか、塩はソースはいつか、肉を挟むか衣を挟むか。キャベツの食べ方、辛子のつけ具合、ご飯のタイミング・・・。

カツ道は深奥なのである。