富山県利賀村「L'evo」

深山と深海が手を結ぶ。

食べ歩き ,

「L’evo」の魚料理。
谷口シェフは、毎朝6時半に山を降りて魚を買いに行く。
最初は「イワシ」の料理だった。
フィユタージュの上に刻んだオリーブ、ウドの細切り、ハーブ類と合わせてある。
イワシとウド。 どうして思いついたのだろう。
ウドの清らかなみずみずしさとイワシが出会う。
食べればイワシは、深山の澄んだ空気の中を、気持ちよさそうに泳いでいく。
そこへ黒オリーブのうまみが,静かに味を盛り立てる。
イワシの薄切りの厚み、ウドの細さ,黒オリーブの量と切り方。
口の中で生まれる味への精妙な計算が、エレガントを生んでいた。
 
次が水ダコである。
細長く薄切りされ、軽く炙った水ダコの下には,そうめんうり、吸盤、梅肉、紫蘇のスプラウト、 紫蘇のオイルが合わされていた。
タコでそれらを巻くようにして食べてみた。
薄く薄く切られたことによって、強く感じるようになった甘みが、舌に流れる。
一方その食感の儚さを高めるかのように、ウリと吸盤が弾む。
紫蘇の青い香りが抜け、梅の酸味がそっと引き締める。
最後に炙った香りふっと顔を出す。
外の雪景色を見ながら食べていると、寒気の中をゆっくりとタコが流れていった。
 
次は赤いかである。
細切りにされた赤いかは、薪で炙り、二色の人参と和え、貝の出汁の泡と金胡麻が添えられていた。
イカと人参は、正確に同寸である。
それゆえに人参の甘みとイカの甘みが同等に広がっていく。
どちらが出ることもなく、互いが互いに敬意を払いながら馴染んでいく。
貝の出汁は、うますぎることなく、淡い旨味で両者の関係を見守り、優しい甘みに金胡麻の香りがアクセントして、いっそう優しさが甘やかになる。
すべてに意味がある。
前のイワシとウド、水ダコとそうめん瓜、そしてこのイカと人参もしかり。
魚介と野菜が互いに主役として共鳴する美しさがあった。
 
最後はアマダイである。
松かさ焼きにしたアマダイに、炊いた大根を添え、熊の脂を浮かせた春菊と雉のスープを注ぎ、モミのパウダーをかけてあった。
森の香りを纏ったアマダイは、柔らかな甘みをスープに溶け込ませていく。
雉の優しい滋味と熊脂の豊満が色を添える。
アマダイもまた山の精気に触れ、冷たい海中にいた時の生命力を蘇らせている。
こうして海と山が抱き合い、富山の豊かさを囁きかける。
大地と大海の慈愛を、心に叩きつける。
それは、冷涼な深山と冷たい深海が手を結び合った、一つの奇跡だった。
 
富山県利賀村「L’evo」にて