海老原さんの野菜は、甘やかされていない

食べ歩き ,

海老原さんの野菜は、甘やかされていない。
厳しい条件下で、必要な分だけの栄養を蓄えようと苦労してきた野菜たちである。
だから自立している。
野菜の尊厳があって、どうだっと人間に問うてくる。
凛々しく真っ当で、どこまでも清々しく自らの良さを謳歌する。
例えば白アスパラは、驚く事に、生でも根元まで齧れる。
つまり固い筋がなく、パシュッと噛み切れるのである。
スティックブロッコリーは、生ハムに負けるどころか、生ハムを調味料として従える。
スナップエンドウは、生で齧れば甘い水が弾け飛び、揚げれば豊かな甘みとなって、人を笑顔にする。
キュウリの天ぷら!は、柔らかな甘みを舌に広げて、概念を覆す。
そしてニンジンの天ぷらは、我々の知っているニンジンではない。
インカの目覚めのような甘みで、ホクホクと崩れていく。
甘やかされて育ったものは、愛情に鈍感である。
しかし海老原さんの野菜は、厳しく育てられるが、実はそれこそが海老原さんからの愛だとわかっているのだ。
だからこそ甘みを強め、個性を高め、香りを放って、恩返しをしようとするのではないだろうか。
「つな八つのはず庵」の職人も、そのことをよくよく熟知して、敬意を込めて揚げるのである。