最初に食べた時には、戸惑った。
“Etubee de petits Legumes a la Coriandre”に、初めて出会ったのは、今から三十年前の、30代の初めだったと思う。
おいしい。おいしいが、これよりおいしい料理は、たくさんある。
何故、みなが絶賛するのか、さっぱりわからなかった。
しかし、歳を重ねるごとに、そのありがたみが増していく。
シャンピニオンをレモン汁で煮て、その煮汁と野菜類を、決まった順番で重ねていれる。
塩胡椒、潰したコリアンダー、干しぶどう、ヴァージンオリーブオイルを入れ、強火で蒸し煮にする。
毎日シェフ自らが作り、タッパーに入れ、眠らせる。
注文が入ると。別々のタッパーに入れた、昨日作ったエチュベと一昨日作ったエチュベを、盛り合わせる。
その際、決して同じスプーンを使わない。
昨日作ったエチュベを盛り、一旦スプーンを洗い拭いてから新たに一昨日作ったエチュベを盛る。
だからただ盛り合わせているように見えるが、時間がかかっている。
それこそが「料理」である。
また斉須シェフは、酸や味が馴染みすぎるのを、よしとしないという。
味見して、わずかなレモン汁を垂らして、微かな、気がつかない程度の酸味を際立たせる。
そうしてこの料理は、我々の元に現れる。
人参を噛む。カリフラワーを噛む。ポワローを噛む。ズッキーニを噛む。カブを噛みしめる。
これは昨日のかなあ。これは一昨日のかなあと想像しながら噛みしめる。
噛んでいくと、塩や酸味で虐められ、火によって痛めつけられた野菜が、うまみを体いっぱいに膨らましながら、頭をもたげてくる。
塩味や酸味はあるが、そこにあるのは、ただただ淀みのない、透明な野菜の滋味だけである。
「持ち味以上の旨さを持たせることは、材料に対して失礼、下品なことだと思っています」。そう斉須シェフはご自身の本に書かれている。
食べながら、「ありがとう」と、心の中でつぶやいてみる。
最初に食べた時には
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