刺身か焼き魚。はたまた煮魚か。 和食店の昼定食における、大いなる悩みである。
たいていは、魚の種類を聞いて決定するのだが、刺身を頼めば、隣客の焼き魚が目に刺さる。
隣の芝生は青いならぬ、隣客の魚はうまい現象にさいなまれ、後悔しながらうじうじと悩んでしまうのである。
しかし「三亀」では悩まない。
この店の昼定食は一種類。刺身と焼き魚、もしくは煮魚という二種類の料理がつく定食なのである。 しかも両者ともにすこぶる質が高いので、心ゆくまで日本人ならではの喜びをかみ締めることができる。
磨き抜かれた白木のカウンターに座り、本日の刺身と魚の種類を聞くときの気分のよさ。
ある日でかけたときは、ほんのりと飴色がかった平目のお造りと、ヒレを立て、さあ食べろとばかりに食べ手をあおる、いさきの塩焼きであった。
いずれも割烹ならではの、包丁の冴えや塩加減、精妙な火の通しによって、吟味された素材を生かした、清々しくなるような味わいである。
さらにおからの小鉢、艶々と光るご飯、お新香、大根のつま、根三つ葉と豆腐の赤だし椀、デザートの果物、食前のお茶といった脇役陣も、手抜きなく、丁寧な仕事が光っている。
またある日は、上品な脂がのっためじまぐろのお造りと真名鰹の照り焼き、鯛の潮汁といった具合で申し分なし。
千七百五十円は、サラリーマンの昼定食としては高いが、二、三日廉価な食事で我慢しても出かけたい、十分な値打ちがある。
その際はぜひ、ゆっくり時間を取って楽しみたい。