「日本料理で一番難しいのはこれや。あとはいいもんさえ集めておけばなんとでもなる。だから一番気合いを入れるのは、お椀とこれや」。
70歳を超えられた木綿清次さんは、そう言われた。
もうこの地で40年以上割烹をやられている。
「それがわからん奴が増えた」。
そう言って嘆かれた。
お客さんと料理人、双方のことだろう。
炊いたカブである。
箸を入れれば、抵抗なく、すうっと吸い込まれていく。
口に運べば、微塵の繊維も感じさせない。
カブはふわりと舌に着地して、ほどけていった。
蕪自体の滋養が広がり、喜びが体に満ちていく。
穏やかな甘みが、出汁の味わいと一つとなって、流れていく。
そして温かみのある余韻が、いつまでも口の中に残って、和らげる。
出汁は使っているが、勝っていない。
調味はしているが、意識させない。
蕪に対する尊敬が、味に染みている。
だからこそ心を動かす。
人間が生み出した「料理」という智慧のすごみが、この蕪料理に宿っている。
「もめん」の全ての料理は