「どしん。どしん」。
料理が運ばれるたびに地響きが鳴り渡った。
これぞビストロである。
東京には数多くのビストロがあり、本場と変わらぬ味を出しているが、唯一違うことがある。
それが一皿の量である。
フランス人で星付きのレストランに行く人は稀で、外食も少ない。
普段は質素な食生活をしているが、たまにビストロに出かけるときは、際限なく食べ飲み、大いに喋る。
このハレとケの落差、非日常を楽しむのである。
そのため彼の地のビストロの料理は、殺人的な量である。
しかしそれこそがビストロの精神なのであろう。
ここ「アンファス」はそんなビストロ精神を、日本人にモデファイすることなく、実直に伝える店である。
量がないと再現できない、味わえないことがあることは、料理人の皆さんならよく知っている。
でもそれでは日本人は食べられない。
そのためポーションを小さくせざるを得ないのである。
しかしここ「アンファス」は違う。
「少し量を少なくしてください」などと野暮なことは言えない。
ここで食べて思った。
僕は大食いだと思っていたが、まだまだ甘かったということを。
ブーダンノワールは、シェフがパリで修行したバスク系ビストロで出していたスタイルだという。
豚の頭の各部位、つまりテット・ド・フロマージュとブータンを合体させ、ピマンドエスプレットの辛味を混ぜた料理で、ブーダンノワールよりは味が柔かい。問題はご覧の量である。
これを一人で食べたら、早くも終わってしまう人も出るだろう。
さらに白子の前菜を頼むと、ブールノワゼットをかけて運ばれた量が半端ない。
さらに主菜は二つお願いしようとしたが、「どちらかひとつ作りますから、その量を見てからお決めになったらいかがですか」?
と言われ、一つにした。
いみじくも、カスレの材料を見せられた時点で、もうお腹がいっぱいになる量だった。
日本で食べた中では、過去最大重量である。
隣の方はカイノミステーキを頼まれていて、シェフは冷蔵庫からだし、掃除するところから始まった。
聞けば500gだという。
肉を焼くときのバターの量も美しい。
また隣客のタブリエサブールは、なんと2枚である。
2枚の胃袋カツをペロリと平らげられる胃袋を持つ日本人は、そうはいない。
またシャルキュトリー盛り合わせを他の席の方が頼んでいたが、ブーダンノワール、パテドグランメール、リエット、鶏レバームースの盛り合わせで、それぞれ厚さ10センチほどあり、キャロットラペがチョモランマ級に盛られ、コルシニョンが1本ほど付け合わされていた。
おそらく全重量500g超え。
3人で食べても、前菜でお腹いっぱいになってしまう。
デセールの焼きたて!タルトタタンは素晴らしく、ライムのゼストをかけたブランマンジェとマンゴーアイスも良かった。
しかしこの量と味は、水では食べ進めない。
お酒飲まない人にはかわいそうだけど、フランス料理ってそういうものなのだからね。