山形「出羽屋」

山の清輝。

食べ歩き ,

一番の驚きは、フキノトウの天ぷらだった。
今まで幾度も」、フキノトウの天ぷらはいただいている。
それだけに、違いに驚いたのである。
サクっ。
軽やかに揚げられた衣に、歯が当たる。
歯がフキノトウを、断裂させる。
その瞬間、風が吹いた。
清らかな風が、体の中を吹き抜けた。
あれは風でなくて、香気だったのだろうか。
一陣の澄んだ空気が、舌、喉、食道、胃袋を清める。
峻烈でいて奥深く、寛容でいて厳しい、自然の気が、人間の血の濁りを浄化させる。
フキノトウを食べて、こんな感覚を得たのは、初めてである。
今まで食べたフキノトウが大人なら、このフキノトウは少女である。
つたなくはかない幼児の香りがある。
採れたてゆえか、月山という土地の力か、山菜採り名人の知恵か、ご主人の力か、今の時期のだからか、それらのすべてかはわからない。
僕らは、ただただ一齧りした瞬間から、山の神秘にやられ、ひれ伏すのである。
2枚目の写真は、最初の出された「のびる」で、コリっとして甘みがニュルリと滲み出る。
3枚目枚目の写真は、最後に出された「甘草」で、噛めば遠くに山が見えて来る。
見事なのは衣で、ノビル、フキノトウ、甘草と次第に衣が薄くなって、軽やかさを演出していた。
山形「出羽屋」にて。