天ぷらのために生まれて来た魚

食べ歩き ,

銀宝(ギンポウ)は、天ぷらのために生まれて来た魚である。
見た目は、ウツボをずんぐりむっくりとさせて、顔を小さくさせたような魚で、どうにもカッコ悪いというか、醜い。
何しろ別名は、ウミドジョウ(海泥鰌)である。
銀宝と言う名の由来も、不格好な楕円形をした江戸時代の貨幣、銀丁にちなんだものとされている。
不格好ながら、昔から天ぷらでは重宝された。
天国の主人であった露木米太郎は「この魚こそ天ぷらのために、この世に生を享けた魚だといえましょう」と書いているほど、5月から7月にかけてのギンポウは、天ぷらで愛され続けた。
さくっと揚げられた天ぷらに歯を立てると、柔らかい身にはが包まれて、淡い味と思いきや、その奥にしぶとい旨味というか、コクがある
それがゴマ油のコクや香りと響き合い、「ああ江戸前天ぷらのギンポウは、うめえなあ」となるわけである。
といっても、天ぷら以外で食べたことがない。
想像するに、水分が多く、その余分な水分を抜く天ぷらこそ美味しく食べられるのだろうが、刺身や焼き魚、煮付けで食べてこそ、「ギンポウは天ぷらだ」と言えるのだろう。
と思っていたら、札幌「壽山」で「ギンポウの焼き物」が出された。
なんと3kgの大きなギンポウだという。
食べれば、銀ダラに旨味を乗せたような味わいで、うまいではないか。
銀ダラより若干身は締まっているが、味の情が深い。
下町の、働き者の銀ダラといった感じである。
こりゃあ「ギンポウは天ぷらのために生まれて来た」とは言えなくなってしまった。
「壽山」の全料理は別コラムを参照してください