夏と冷奴。

食べ歩き ,

居酒屋で「冷奴」を見つけると、必ず頼みます。

単純に、冷奴で日本酒をやるのが大好きだと言う理由もあるのですが、その店の哲学がさりげなく込められていると思うからです。

どの豆腐を使うのか、器や盛り付け、薬味や醤油はどうするのかといった様々な配慮が行き届いていないと、風情がない、

つまらない冷奴になってしまう。

その点、東京を代表する老舗大衆居酒屋である「鍵屋」のそれは、運ばれてきた時点から、品格を漂わせています。

染付の皿に渡された、年季入りの木板に乗った豆腐が、美しい。

姿だけで、盛夏を冷ややかにしてくれます。

「お薬味です」と運ばれる木箱には、刻みネギがたっぷりと入り、豆腐の上にはおろし生姜とシソの細切りが、行儀よく並んでいる。

小鉢に入った醤油に生姜を落とし、豆腐をちぎっては浸け、シソやネギを乗せて口に運ぶ。

井戸水を汲み上げて作られる、上野桜木の藤野豆腐店の優しい甘みが広がっていく。

ひんやりとした口の中へ、すかさず菊正のぬる燗を流し込む。

夏の幸せここに至れりと、感極まった気分となる瞬間です。