その居酒屋は、今年創業100年を迎えた。
大正14年に店を開き、多くの学者や文士など粋人が愛してきた、湯島の「シンスケ 」である。
創業100周年の試みとして、「噺に登場する食べ物を食べながら、その落語を聞く」というイベント「100年めの落語めし」にご招待いただき、参加した。
話し手は、春風亭一之輔師匠で、長屋の花見や味噌豆をはじめ、三つのお話を楽しませていただいた。
酒を呑みながら噺を聞くという、誠に洒落た時間を過ごさせていただいた。
テーブルの上には、花見の噺に出てくる、玉子焼きに寄せた沢庵、かまぼこに似せた大根(この日のために「亀戸升本」さんからとくべつにお分けいただいた亀戸大根だという)、本物のかまぼこと玉子焼き、味噌豆などが置かれ、大いに笑いながら、大いに情にほだされながら、とっぷりと両関を飲んだ。
冒頭に当代の矢部さんより「落語と居酒屋は共通点があるような気がします」というお話があった。
たとえていえば「寄席に行って、ちょいとくすぐられてくる」。「寄席で人情に浸ってこようと思うんだ」。「ちょいと、酒をひっかけてくらあ」。「今夜は酒を飲み交わそうじゃねか」といった、言葉に時間という要素が入っていて、昔の人は、同じ体験をそれぞれ時間軸によって楽しんでいたのではないかという話だった。
普段は、しまいの時間も決めずにだらだらと呑んでいる自分にとって、改めて未熟を感じさせられる。今度は、101年目を迎えた「シンスケ 」に出かけるときは、そんな心がけで出かけようと思った次第である。
もっともつまるところは、長居をしてしまうのだろうが。