高知の「一軒家」に行くと、お母さんがなんとも優しい笑顔で「いらっしゃい」と言ってくれる。
僕はもう、それだけで幸せになった。
続いて
「なににしますか?」
穏やかな口調でたずねられた。
冷たいだしを張った冷奴、ネギを入れてトロトロに焼き上げた卵焼き、そして花ニラを使ってシャキシャキと香りがいい「ニラトン」である。
ああ、フライもいいな。
親鳥の塩焼きも頼もうかな。
こいつらを焼酎のお湯割りで、迎え撃つ。
時間がふわりと柔らかくなって、夜の笑顔に包まれる。
焼き茄子、冷奴、煮込み。当たり前のつまみが素晴らしくうまい。
そして、笑顔が優しい働き者のお母さんと、息子に料理をさせて、ずっと座って注文を伝えるのが仕事のお父さん。
温和な笑顔でいつもニコニコされていたお父さんは、お亡くなりになったがお母さんは元気で息子さんたちと働かれていた。
去年2回ほどいくチャンスがあったが、ちょうど定休日だった。
しかしそのときは二度と会えないとは、想像だにしていない。
今日「一軒家」が閉店したという話を聞いた。
「会いたい人に会えない」。
素晴らしき思い出に感謝しながら、その悲しみを抱えて、また生きていかなくてはいけないのか。