三越前「蟹王府」

今でしょ。

食べ歩き ,

上海蟹を食べるなら、今、である。
メスは大きくなり始め、白子を持ったオスも食べどきだからである。
男と女の食べ比べは、今しかできない。
食べるならまずメスからいこう。
ミソは、やんわりとした色気をのせながらとろんと舌に、切ない甘みを這わせてくる。
卵はより濃厚な甘みを流し、卵白のようなやさしさを持った甲羅の膜が、心を落ち着かせる。
そして脚肉は、生姜醤油に漬けた途端に、あまみを覚醒させる。
次はオスといこう。
甲羅を開けた途端に見えるのは、乳白色の白子である。
ミソにくっついて、顔を覗かせる。
白子をつまんで食べれば、ねろりと口内中の粘膜と舌に粘ってくる。
甘いようなうまみがあるような、名状し難い味わいが、舌に抱きついてくる。
その不思議に、自然と鼻息は荒くなり、体が上気する。
そしてミソも膜も脚肉の味も、メスより濃い。
ただ濃いのではなく、ねっとりと濃い。
その執拗さに、生命の神秘を知る。
最後は燗酒をもらい、オズの甲羅に注いで、よく混ぜてから飲んでみた。
これはいけません。
自身は男なのに、妊娠しそうな危うさを感じるのであった。