半蔵門「エリオロカンダイタリアーノ」

レストランとはこうでなくちゃいけない。

食べ歩き ,

レストランとはこうでなくちゃいけない。
昔 女性と二人でイタリアンにでかけた。
「マッキーさんひさしぶりです」。
席に座ると、支配人が飛んできて握手する。
そして言った。
「今夜は素敵な女性と一緒ですから、これはいらないですね」
そう言って、テーブルに飾ってあった花を持ち去ったのである。
そこには、微塵のいやらしさも感じさせないスマートさがあった。
 
このイタリアンへは、前の会社で嫌なことがあると、必ずでかけた。
大声を出さねば伝わらないほど、この店はどのテーブルも大いに飲み、食べ、笑い、喋っているので、おいしい賑わいが渦となって、巻き上がっている。
その中を、陽気なカメリエーレたちが小走りで店内を行き交い、料理やワインを運ぶ。
エリオさんが巨体を揺らしながら冗談を言う。
この喧騒の中に身を置くと、仕事で悩んでいたことが、馬鹿らしくなってくる。
人生って悪くない。
そう思える瞬間が、いつもここにはある。
 
昨夜この店で、「カラブリア料理」に限って料理を作ってもらった。
少し辛く、名物の赤玉ねぎやじゃがいもを添えた料理は、何も考えずとも「うまい」という言葉が出てくる。
ポルペッティメランザーネ、ズッキーニと長茄子のエスカリーチャ。
金時豆のスープにひよこ豆のパンに乗せたブルスケッタ。
黒豚とポルチーニのフジッリカラブレーゼ、
自家製リコッタとトマトソースのキッタラカラブレーゼ。
焼き鯖に、鳥とじゃがいものロースト、サルシッチャカラブレーゼなど、特別にお願いした料理が、次々と運ばれる。
白ワインと赤ワインをガバガバと飲み、食後酒も飲む。
酔って次第に声は大きくなり、周囲の喧騒に溶け込んでいく。
ドルチェを食べていると、エリオさんが来て言う。
「お腹いっぱいになった? アリオオーリオ作ろうか?」
レストランとはこうでなくちゃいけない。
 
半蔵門「エリオロカンダイタリアーノ」