少しだけ火が入れられた伊勢海老は、歯と歯の間で身悶え、「噛んだのね」と、たずねてくる。
まだ生の気配を残すその身体は、舌にねっとりと肌よせながら、品のある甘みをにじませた。
いや品がありながらも、味の遠くにしたたかな艶があって、その微かな存在にどきりとする。
次に下に敷かれたソースを、伊勢海老にたっぷりからませてやる。
煮切った酒と、太白胡麻油に少しの葛を入れ、撹拌して乳化させたという白いソースを、全身にまとった伊勢海老に、優美が現れる。
強い醤油やワサビでは表現できない、伊勢海老の繊細な美しさがここにはあった。
フランス料理のエレガントを、乳製品を使わずに取り入れ、和食として昇華させた、傑作である。
食べながら思う。
真のおいしさとは、エレガントの中にしかないことを。
大阪「柏屋」。『伊勢海老昆布〆炙り 煮切り乳化地』。