ふたを開けると川が流れていた。

食べ歩き ,

ふたを開けると川が流れていた。
石に見立てたナスの上に、安曇川のイワナが寝かされ、草に見立てたインゲンと甘草の花、柚子の実があしらわれる。
イワナを一口含む。
ああ、アナゴのような甘みと皮のぬめりが混じり合い、ゆっくりと身がほぐれていく。
舌の上を泳いでいき、繊細で気品のある余韻を残して消えていく。
淡い淡い味わいの中に、どこか泥臭いようなしぶとさがあって、それが透明感に輝くつゆを、たくましく変えていく。
もう一つの煮物椀は、池があった。
赤と白の合わせ味噌に、よもぎとジャガイモを練ったしんじょ、新じゃがを桂むきにして素揚げしたもの、刻み茗荷が浮かべられている。
しんじょは岩、桂剥きのジャガイモは波紋、ミョウガは水玉だろう。
丸く、しみじみと美味い汁を飲み、次にしんじょをそっと口に入れる。
すると、はかなく消えた。
芋の甘みとヨモギの香りを広げながら、なにもなかったかのように、喉元に落ちていった。
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