そこに人間の叡智の深淵を見た

食べ歩き ,

「ナマコを使った中国料理の意味が解らない」といった人がいたが、その人に食べさせたかった。
銀座「趙楊」のナマコ特別料理会は、7種類のナマコ料理が出されたのである。
ナマコといえば食感の妙だけで、味はあまりない、というのが印象である。
しかし人間の味覚というのは、底知れぬ。
食感の差異が、他の食材との組み合わせが、ナマコを様々な味わいに変貌させるのである。
とろりと溶けゆく中に青山椒の刺激が入って、撫でられながら頬っぺたをひっぱたかれるような、感覚にはまる「青山椒ソース和え、」。
ふわりと歯が包まれるナマコを噛みしめると、練れた辛味が顔を出す「ナマコの煮込み 唐辛子の漬物風味」。
搾菜の酸っぱく辛いが優しい味が、ナマコを包み込む「搾菜の酢漬けと辛味のきいたナマコ煮込み」。
牛ほほ肉と合わせ、ブリブリとした食感でたくましさを感じさせる、朝鮮人参風味のスープで仕立てた「牛頬肉とナマコの醤油煮込み」
塩で戻したというナマコは、微かに甘く、噛みしめると海の匂いが忍び寄る、不思議な「ナマコのから揚げ 唐辛子の香り炒め」
毎日食べても飽きない、温かくたくましい味わいの中で、ナマコのふわりとした食感が丸く溶け込んでいる、しみじみとうまい「四川家庭風ナマコの辛し煮込み」。
アワビと辛く味付けしたフカヒレをナマコに詰め、滋味深い上湯で煮込んだ、ブリンブリンと歯の間で主張するナマコと他の乾貨との食感が面白い、「鋳込みナマコの姿煮込み」。
自らの味覚感覚の多様さを発見し、食感の記憶というものも考えさせられる、ナマコ宴席。
そこに人間の叡智の深淵を見た。