これはレンブラントだと思った。

食べ歩き ,

これは、レンブラントだと思った。
色彩は地味で、目を喜ばす構図もない。
美しさという点では未完成かもしれない、と思わせる。
「イベリコ豚と蓮根のラグーであえたタリアッテレ」というメニュー名から想像した光景とは、まったく違う光景である。
黒々として、少し不気味でさえある。
イベリコ豚のバラ肉を煮込み、歯ごたえを残す程度にイベリコの脂で煮た蓮根と合わせ、焦がした小麦粉で作ったタリアッテレであえて、ラディッキオ・ロッソを加え、パルミジャーノをふりかけ、軽くグラチネしたという。
ああ、一口二口と噛むごとに引きずり込まれる。
パスタの焦げた香りとラディッキオ・ロッソの苦味が呼応し合う無骨さの中を、豚脂の甘みがゆっくり溶けていく。
時折蓮根が、ザクッと音を立てて、胸を突く。
大胆で、一見雑にも見えながら、その量とバランスに精緻がある。
大地の力強さと温かみが皿の中に渦巻いてる。
小林シェフならではの、成熟した味わいの表現に満ちている。
巧みな配置により、質感の違いを強調し、光と影の繊細な移ろいを表現する。
やはり、レンブラントだ。
銀座「エッフェ」にて。