四谷 「萬屋おかげさん」

おむすび。

食べ歩き , ポエム ,

神崎さんが握ると、おむすびは宙を舞う。

上下に置いた手に、指に、一瞬ついたかと思うと離れ、宙を舞う。

おむすびは、握られているが、握られていない。

踊っている。

そんな気分なのだろう。

おむすびを噛んだ瞬間、はらりと崩れる。

米の甘い香りと豊かなうま味を広げながら、はかなく米粒が散る。

だがそれでいて、形は崩さない。

いくら頬張っても崩れない。

最後の最後、最後の小さな一口まで形を保ち、米一粒離さずに、凛としている。

指の間に残った、最後の一固まりを食べる。

人間との別れを惜しむように、おにぎりは、はらりはらりと散って、旅立っていく。

 

「萬屋おかげさん