油麺あります。

食べ歩き ,

「油麺あります」。
目の前にパスタが置かれた瞬間、そういわれた。
トマトとニンニクとオリーブ油と唐辛子。
それだけならば、アラビアータのロングパスタバージョンである。
しかし油の量を、通常の五倍使っているという。
油に、ニンニクの香りをトマトのうま味と唐辛子の辛みを移し、それをパスタにまとわせる。
しかし強烈な油麺は、油を感じさせない。
辛さと香りとうまみを絡めながら口元を過ぎ、舌の上をなめらかに過ぎて、胃の腑に落ちていく。
しかし。
「食っているかあ。まだまだだな」。
食べゆくと、そうパスタにどやしつけられ、背中を叩かれるのだ。
やがて、口元が汚れることも構わずほおばりたくなり、鼻息は荒くなり、コーフンしてくる。
安く、カロリー高く、精がつくにはどうしたらいいか。
フィレンツェのドゥオモを作る労働者たちのために考えられたというパスタ料理、「カレティエラ」である。
都会の人間である我々は、このパスタの前には無力で、ただただ根源的な食欲を奮い立たせるだけなのだ。
メゼババにて。