おにぎり一個五千円

食べ歩き ,

ざぶん。
おにぎりを食べようと、あんぐりと開けた口に、波しぶきが舞った。
唇を、口腔を、歯を舌を、荒波が打ち付ける。
十六島海苔のおにぎりである。
荒れ狂う冬の日本海の岩場で、「シマゴ」と呼ばれる人達によって摘み取られた十六島海苔は、えっちゃんが山奥の田んぼで、手間ひまかけて育て、2年連続日本一をとった仁多米と抱き合わされた。
このおにぎりに値をつければ、一個五千円にもなるという
なにしろ50g1万円という真の十六島海苔に、5キロ8800円の米であり、どちらも入手が極めて困難だからである。
海苔の香りが、凄まじい。
海苔のうま味が凄まじい。
口の中を海底に水没させてから、ゆっくりうま味が立ち上がる。
たくましくも優しい、うま味が舌を圧倒し、そこにご飯の甘みが追いかける。
「コシヒカリでは海苔の旨味に負けてしまいます」というほど、この仁多米の甘みは、たくましい。
海苔のうま味を包み込みながら、至上の喜びへと運んでいく。
それは、奇跡である。
打ち付ける波をものともせず、岩にしがみついて育った、強靭な海苔の生命力と、人里離れた厳しき環境で生き抜いた米が出会った、奇跡である。
がっしょ出雲にて