たまには、甘いものの事を書こうと思う。
「あんみつ」である。
あんみつなんてそんな違いがあるの? と思う方もおられるかもしれないが、これがケッコウ違う。
下記の銀座三軒を巡っても、見事に違いがある。
例えば「とらや」のあんみつは、貴婦人である。
ガラスの鉢に盛られて、楚々と佇んでいる。
中央に、黒々としたアンコが鎮座し、周囲には、紅白の求肥、透明な寒天、琥珀寒天に黒琥珀寒天、山梔子寒天、赤茶の赤エンドウ豆と茶の大豆、季節の形となった、水ようかんの赤と緑が配される。
これだけ様々な要素が盛り込まれたあんみつを知らない。
要素が多いだけでない。それぞれが吟味されており、それゆえ調和もとれている。
様々な色合いが交錯するが、そこには派手さや無理がなく、自然な日本の風情がある。
寒天を噛み締め、豆の素朴な甘みを舌に転がし、アンコの柔らかな甘みを、じっくりと味わう。季節変わりの水ようかんは、水分を少なくし、砂糖と小豆、寒天を練って作るため、アンコと見事に合う。
形は、1、2月が、梅と竹、3、4月が桜と桜の葉、5、6月が菖蒲と牡丹、7、8月が金魚と瓢箪、9、10月が、菊と菊の葉、11、12月が、水仙と椿の葉、クリスマスは、樅の木とブーツと変わっていく。ああ、実に楽しいじゃありませんか。
さらにトッピングも充実しており、品よく煮られた肉厚の杏や、羽二重のように滑らかな食感の白玉、ふっくらと煮た花豆などを付け加えれば、さらに贅沢感は増していく。
仕事の丁寧さが伝わるそれぞれの具は、甘み、味、食感が、明確に伝わる。
そしてここに黒蜜をかければ、さらに具は調和し、共鳴して、あんみつ交響曲が鳴り響く。
色々な魅力で惑わすが、品格が漂う。それが貴婦人を思わせるのである。
一方「立田野」のあんみつはどうだろう。
こちらを食べると、日本の原風景が広がって、郷愁が迫ってくる。
なにより寒天がいい。ブリッと、音が立つかのような、たくましいコシがあり、噛むとほのかに磯の香りが鼻に抜けていく。
富良野産の豆を、五時間手練りしたというアンコは、ほっくりとして、舌にふわりと着地すると、豆の香りをまき散らす。
たっぷり入った豆は、塩豆ではなく、塩茹でをしていない分、ふっくらと柔らかで、穏やかな気分を呼ぶ。
白玉は滑らかで、もちっと歯の間で弾むと、はかなく消えていき、杏は香り高い。
おすすめは、淡雪のように消える食感が魅力の小豆アイスをトッピングした、「小豆あいす白玉あんみつ」である。
寒天の凛々しさが、豆やアンコ、小豆やアイスのはかなさと対比する味わいもまた、自然が持つ美しさである。
初代は、立田野という引退した力士で、下戸であったがため、枡席で食べるあんみつを考案し、お土産あんみつの元祖になったと聞く。
立田野は、自然を愛する優しい力士だったのだろうな。
そんな思いを抱かせるあんみつである。
「鹿乃子」のあんみつは、まめまめしい。
庶民のぬくもりと、気っぷの良さがある。
栗に五色の豆を配した銘菓「かのこ」の店だけに、豆にこだわりを見せている。
つぶしあん(粒あん)はさらりとして、なんとも豆の香りがいい。
毎日の気圧によって、炊き上がり時間を変えるというアンコは、長時間付ききりで作られている。
そして豆は、軽井沢産紫花豆、北海道産花白豆と虎豆、青エンドウ豆の蜜含ませ煮、赤エンドウの塩豆と五種類が、たっぷり入っている。
豆それぞれの風味が、口の中で花開き、笑い出したくなる痛快なあんみつである。
そこを、漂白をかけていない、素直な味が伝わる大和栗の蜜煮や、和三盆、三温糖、黒糖、中双糖など、7種類の砂糖を使った、なんともコクが深い蜜が、あんみつを盛り上げる。
どうです。あんみつは深いのです。
三軒三様の個性があり、それぞれの菓子屋としての挟持が、あんみつに込められていることである。
これを機に、「あんみつ」巡りをしてはいかがだろうか。
銀座「とらや」
http://tabelog.com/tokyo/A1301/A130101/13002595/
銀座「銀座立田野本店」
http://tabelog.com/tokyo/A1301/A130101/13002561/
銀座「銀座鹿乃子本店」