〜恐れを知った計算〜
先の先を行く人だと思う。
京都「cenci」の坂本シェフのことである。
京野菜や鮎やウニを使うことの怖さを知っている人でもある。
一皿の構成要素は、多い。
だがその切り方や互いの量、味の構成、口の中での変化、食感、主役となる味わいの締め方を、精緻に極めているからこそ、主食材が輝き、何を食べさせたいかが明確になる。
それでいて、どこにもない坂本シェフの料理である。
この「じゃがいも、イカスミ、ウニ、すだち」と書かれた冷製パスタもそうである。
「ウニなどを使うと、どうしても塩を効かせないと味がぼやけてしまうんです」という。
料理は、インカのめざめのヴィシソワーズ、イカスミのタヤリン、明石のウニ、ペルシュウの切れ端を煮詰めた出汁と竹野酒造の米麹、すだちの皮で構成されている。
ヴィシソワーズの優しい甘み、明石のウニ特有の綺麗な甘みが出会って素敵な時間が流れるが、その味を引き締めるのが一番上に乗った、ペルシュウの切れ端を煮詰めた出汁と竹野酒造の米麹だった。
塩気が丸く、旨味が深いこの独自の調味料が、全体の味をぐっとまとめ、締めて、「ああおいしい」と言葉を呟かせるのであった。
その計算や見事。
京都「cenci」の夏を満喫する全料理は、別記にて