金沢「片折」

〜切るという仕事〜第三弾  「片折」青バイ貝

食べ歩き ,

〜切るという仕事〜第三弾
「わたしのすべてを見て、味わって」。
青バイ貝は、そう囁く。
「片折」での二つ目のお造りは、青バイ貝であった。
通常は横に切るが、片折さんは縦に、同寸に切られている。
これがいかに難しいか。
硬く、滑りやすく、包丁を入れようとすれば逃げようとするバイ貝を、正確に縦に切ってあるのである。
「こうして切った方が、味が出やすいと思いました」。
既成概念にとらわれることなく、愚直な心で食材と向き合う片折さんらしい言葉である。
バイ貝を口に入れる、噛む。
途端に磯香が広がり、ミルキーな甘みが流れ出す。
続いて、微かな苦味がきて、ほのかな酸味がにじむ。
ただ甘いだけではない、複雑な滋味が口の中で回って、酒を呼ぶ。
それこそが、海底にじっと潜みながら、死んだ魚の肉体や内臓を食らうバイ貝のしたたかさであり、本性の味を引き出した、片折さんの眼力なのだろう。