「葱しゃぶ」と聞いて

食べ歩き ,

「葱しゃぶ」と聞いて、腹が空く人は少ない。

僕もそうだった。なにしろしゃぶしゃぶといえば、牛肉や豚肉、鯛やハモといったタンパク質が主役になってこそ、威力が発揮されるからである。

使う葱は、大分宇佐市で栽培される「味一ねぎ」。食べるは「葱屋おおくぼ」。

博多葱のように細い葱であるが、博多細葱やアサツキ等と比べる若干柔らかく、包丁で小口切りにするとつぶれてしまうことが合って、敬遠されることもあるという。

しかしその柔らかさが、しゃぶしゃぶにすると俄然生きるのである.

生で齧るとツンとした刺激があって、香りが高い。

しかし玉葱同様、その刺激要素が火が入ることによって、甘みと転じるのである。

柔らかいので、口に繊維が残らないが、ジャキッと噛み切る爽快はある。

「こりゃあうまい」と、鱧も豚バラも用意していただいたが、最後は「葱、葱、葱」と、一同葱しか食べない。

もうこれから鍋は、味一ネギしか使わんとコーフンしていたら、「これを御飯にかけたネギ御飯もおいしいのよ」と、神谷さんがささやくので、食べるぞぉと「とうがらし工房」に移動、炊きたて御飯に葱の小口切りをどさっとかけ、醤油を一回しして掻き込んだ。

「ワハハハ」一口で笑った。

御飯の甘みを葱の辛味がほどよく引き立て、痛快な食感とご飯との対比も楽しく、こりゃあ止りませんぜ旦那。
ためしに削り鰹節を乗せてみたが、邪魔である。余計なうま味はいらん。御飯と葱の蜜月だけが潔くうまい。

一計を案じて、青柚子胡椒をいれて茶漬けにした。

ああ、ネギとゆずの香り、辛味と甘みが入り交じって、これも行けない味ですね。

こりゃあ葱焼きにしたらうまかろうと、翌日先のしゃぶしゃぶを出してくれた葱の生産者大窪さんが営む葱焼き屋に行く。

豚チーズのソース味と牛スジの醤油味を試す。

時間は10時過ぎ、旅館の朝食をたらふく食べた二時間後である。

一切れだけ試食のつもりが、二人で二枚を瞬く間に平らげた。
醤油やソースに生地やチーズや豚や牛スジにまみれても、葱の甘みと香りが生き生きと迫るのである。

ああ、これからは「葱しゃぶ」と聞いただけで、お腹がすいてしまう。