「前の店より、料理へ集中できるようになりました」。
そう言って、鈴木さんは、穏和な表情で笑われた。
どの料理も、おそらくこういう風に作ったのだろうと想像が出来、再現したくなる料理なのだが、塩加減、ゆで具合、加熱の仕方、ソースの量など、以上でも以下でもない、極めて精巧な仕事があって、充足のため息が出る。
メカジキの過熱とカリフラワーの茹で具合。
グリンピースとタマネギの、抱き合い方。
ストラッチャテッラチーズに合わせた、魚醤の塩梅。
ラディッキオへの油加減。
トマト入りオムレツの、トマトの火の入り加減。
アナゴの赤ワイン煮の香りの活かし方。
グリーンアスパラのスパゲッティの、アンチョビの利かせ方。
カルチョッフィとトマトのパスタの、煮込み加減。
シャラン産鴨の凛々しい火入れ。
肉コロッケの福々しさ。
どれも、イタリア料理のおおらかさに包まれながら、丁寧で精密な仕事が、僕らの心を鼓舞する。
ワインを飲ませ、大いにしゃべり、笑わせる。
すてきな食堂。ごちそうさまでした。
「前の店より、料理へ集中できるようになりました」
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