Solong vol3

日記 ,

Solong vol3
なんて可愛らしい人なのだろう。
銀座のバー、「らんこんと」のママ、長谷川滋子さんに初めてお会いした時、素直にそう思った。純な心を滲ませながら笑われる姿に、少女の面影があった。
「らんこんと」は、実に気持ちがよいバーである。銀座で食事をした後に、ついふらりと寄りたくなる店である。
店は、一階がカウンター席、二階がサロンになっていて、好みで使い方を分けられるところもいい。
このバーのオーナーが、常連からは親しみを込めて“おしげさん”と呼ばれている長谷川滋子さんである。

おしげさんは、その笑顔も、ちょっとした仕草も、実に可愛らしい。

しかし何回か通い、お話をしているうちに、信念に似た正しき人道が、芯で燃えている気配が感じられた。
彼女は、歴代の首相や政界の重鎮、財界のトップ、大物芸能人やスポーツ選手などが顧客であった、伝説の高級クラブ「ジュン」で、長年働いた方である。

銀座の裏の裏まで知っている方でもある。
「ジュン」のマダム塚本純子さん、「らどんな」のマダム瀬尾春さんには、人間の道をたくさん教えられたという。小説やドラマ、映画にもなった、伝説の人たちである。
「人間として、深く尊敬しています。本当に勉強させていただきました」。おしげさんはそう言って、遠くを見た。
その後独立して、バーを開く。何軒かを経営し、現在の場所では2009年よりやられている。彼女の元から巣立ったバーテン達が、現在全国で6軒バーをやっているという。
「人生山高ければ、谷深し。今は苦しくても、次にいいことがあること思う。長い間商売をやらせていただいて、つくづくそう思います」。そう言って彼女は唇を噛み締めた。
 接客のプロである。相手の気持ちを一瞬にして読み取って心地よくさせる、話のプロでもある。そんなプロが、最後に意外なことを言われた。
「40数年間、人様とお話をしているのに、実はもってうまれたあがり症なの。わたしってまじめなのかしら」。
 どこまでも可愛らしい人である。
 さようなら、あなたに会えないと、心が空白になる男たちはたくさんいる。
「らんこんと」は12/20店を閉める。

 

閉店