おいしい朝ご飯。
ほら、どうです。こう書いただけで幸せな気分になりませんか?
今回の指令は、「世界最強の朝食づくり」。
これはすなわち、「世界最強の幸福な時間づくり」という意味ではないですか。
こりゃあ、心してかからねばならないぞ。
洋食か和食か。
力を体中にみなぎらせる、洋もいい。
しかし和食には、身中に活力をみなぎらせ、かつ心を座らせる力がある。
日本人にとっては、一日の覚悟を整える食事なのである。
最強というなら、和食を選ぶほかはない。
ならばどこで習うか。
俵屋、瓢亭など名旅館や料亭の朝食が思い浮ぶ。
しかしそれは非日常の魅力であって、家庭となると、様子が違う。
考えたあぐねた揚句、ご飯、汁、おかずを、各スペシャリストから習うのはどうだいと思い立った。
おかずが多すぎては。清々しくない。
2品ぐらいがよく、そこで誰もが認める焼き鮭と卵焼きに決めた。
選んだのは4軒である。
朝食の背骨となるご飯は、銀座「一二岐」にした。
なぜなら、おいしいご飯を出す店は数あるが、炊いた段階によって、4回提供する主人の眼差しに、並々ならぬ米への愛情を感じたゆえんである。
香ばしき湯気の中で、光り導くご飯。
米は、一致団結しているようで、噛むと、一粒一粒が主張する。
米から勇気をもらう、朝ご飯にふさわしいご飯である。
名脇役の味噌汁は、銀座「汁八」にした。
「資沢は言わない。ご飯と味噌汁と新香さえ旨ければ」といわれるご主人が選び、認めた味噌汁だけに、質素ながら温かみがあって、なによりご飯が食べたくなる味噌汁である。
つくった人の思いやりがにじみ出る旨さである。
焼鮭は、この道40年、塩鮭一筋でやられている新橋「きよし」にした。
塩と脂、旨味がなじんだ鮭が、舌の上でほどけた瞬間に笑い、すぐさまご飯茶碗に手が伸びる。
だがこ塩鮭をつくるためには、2日前から仕込まなくてはいけない。
2日先の朝ご飯に向けて思いを込めるなんて、美しいじゃありませんか。
最後は玉子焼きである。
銀座「す多ち」の玉子焼きは、だしがえばっていない。
卵の味が前面に出て、だしがそうっと底支えをしている。
ふんわりとした、オムレツのような食感もたまりません。
鰹節を混ぜた染めおろしを合わせれば、途端にご飯が恋しくなる。
さあこれらを一緒に食べよう。
鮭の強さ、卵の優しさ、味嗜汁の温かみ、ご飯のたくましき甘味。
互いが互いの味を引き立てながら、高みに昇っていく。
ああ、なんと幸せなのだろう。
きよしと汁八は閉店