札幌「ラサンテ」

「この時期は、シェフが生き生きとして、嬉しそうなんです」。

食べ歩き ,

ホワイトアスパラの精霊に、口づけされた。
勇猛ではかなく、雄弁ながら朴訥で、強靭さと脆弱を併せ持ち、どこまでも澄んでいる。
穢れなき苦味と、豊かな甘みで抱きしめ、心を揺らし、感性を翻弄し、官能を刺激する。
「この時期、シェフが生き生きとして、嬉しそうなんです」。
マダムもまた、そんなシェフのアスパラ料理を運ぶのが、楽しくてたまらないといった様子である。
最初の衝撃がスープだった。
ホワイトアスパラの皮を剥き、乾燥させ、札幌軟石の焼き台で焼いている肉の煙をまとわせながら燻し、煮出したものだという。
黄金色のスープを一口飲んで、目を丸くした。
なぜか、ほのかなエノキ茸と茶の香りがある。
優しい滋味を漂わせながら、舌を洗い、喉に落ちていく。
そこにはこの世のものとは思えぬ、不思議があった。
さらにエスラゴンが香る、カブとクリームチーズのムースに埋められたアスパラを食べれば、ほのかな酸味があって、後から穏やかな甘みが起き上がる。
もう一つは、皮の香りをまとわせた、アスパラ型に焼いたサブレだった。
アミューズの精度の高さに、震える。
そして前菜は、ホワイトアスパラのムースだった。
ポタージュとムースの間のような滑らかさを抱いたムースは、ホワイトアスパラのすべてを内包していた。
甘みとミネラル、微かな苦味を伝えながら、喉に落ちていく。
その優美な時間に、言葉が出ない。
濃密なオマールのコンソメと生ウニが合わせられるが、ホワイトアスパラを越えようとはしない。
アスパラのうまみを感じた後、オマールやウニの風味が花開き、最後はまたアスパラが広がって、余韻となる。
ホワイトアスパラとは、かくも豊潤だったのかと衝撃を受けながら、宙を仰ぐ。
だがこれらは、ほんの序章に過ぎなかった。
以下次号。