イタリア人になれないことはわかっている。
だが食べながら、少し嫉妬した。
イタリア人が、きんぴらやおからを理解できないように、我々も慣れ親しんだイタリア料理でさえ、理解できていないかもしれない。
カルボナーラを食べながら、そう思った。
日本では数多く多くのカルボナーラを食べてきた。
クリーム入り、なし、パンチェッタ、グアンチャーレ、ベーコン、挽き黒胡椒、潰し黒胡椒、様々なタイプに出会い、イタリアでも食べた。
黎明期より日本にイタリア料理を伝えてきた、吉川シェフにも歴史と作り方を、教わったことがある。
ローマの料理として人気が出たカルボナーラに、なぜクリームを入れるようになったのか。
日本だとスパゲッティーと決まっているが、ローマではペンネやマカロニも使うこと。
家庭だと、はじめに卵を混ぜておいて、最後にペコリーノをたっぷりかけて、食べるときに自分でさっと混ぜて食べるやり方もあること。
ゼラチンの部分が味の決め手だから、パンチェッタではなくグアンチャーレを使うこと。
木材を多く産出するローマ近郊南の森林地帯、チョチャリア(Ciociaria )地方で生まれた料理だということ。
加熱されているが、卵かけご飯のような存在だということ。
吉川さんの作るカルボナーラを食べた時、「炭火焼職人風」という名前の意味を、体の芯で感じた。
その日食べたのは、「Penne lisce alla carbonara」である。
筋なしペンネを使い、とろりとしたソースに包まれていた。
熱々ではなく、ぬるい。
それゆえに卵は気がつかないうちに、火が通り、それ以上の進行はしていない。
卵が、温泉に浸かってくつろいでいる感覚があるから、穏やかさが心のうちに広がる。
後からヒリリと黒胡椒の刺激が来る。
次第にフォークが止まらなくなるのは、グアンチャーレの旨みが溶け込んでいるからだろう。
我々日本人には理解できないのかもしれないが、なぜか懐かしい気分となった。
胸の内に春の陽だまりが降りてくる。
目を瞑れば、山間部の雄々しき質朴がにじり寄り、深々とした味わいが体に満ちていった。
門前仲町「オステリア・ヴェッキオ・スタンポ」にて。
