<ラブランシュのスペシャリテVOL2。
★ヤリイカのクールジェットつめ
「ヤリイカのクールジェット詰め トマトソース」である。
店は今年創業40年を迎えたが、開店時より出している料理だという。
いや店を始める前、銀座「レザンドール」のシェフだった頃から作られていた。
おおよそ半世紀作られ続けられた料理が目の前にある。
ナイフを入れる。
クールジェットが見える。
トマトソースと一緒に、口に運ぶ。
イカの焼けた香りが鼻をくすぐり、目を細める。
イカとクールジェットの甘みが流れ、純粋なトマトの甘酸味が後を追いかける。
ああ、僕はまだ元気でここにいる。
この料理のおいしさを、惜しみなく受け取れる。
そんな想いが湧き上がり、深々と感謝した。
初めてこの料理を食べたのは34歳、今から36年前である。
一口食べて、崩れ落ちた。
「この世に、こんなに美味しいものがあるのか」と、めまいがした。
あれから何回食べただろうか。
毎回毎回、同じように感動する。
同じようにめまいを覚える。
こんな料理は、他に数えるほどしかない。
ヤリイカは一年中あるが、春先しか出さないという。
なぜなら、クールジェットの優しいあまみと食感とのバランスがあるため、春先の皮が薄いものでないと、いけない。
トマトソースは、フルーツトマトを刻むのだが、まな板に音が立って、繊維が潰れ過ぎ、泡立たないよう、優しく静かに、40分かけて微塵にしていく。
ガルニは、福島の鈴木さんが作った甘いほうれん草で、葉先をつかんだまま熱湯に根を入れ、しばらくして茎、葉といれていく。
クールジェットは水分が出ないように、直前で炒め、詰める。
すべてに、おそろしく手間がかけられている。
食材を生かすべく、すべての正解に向かって、入念に仕事された結実がここにある。
これを完璧と言わずして、他になにを言おう。