浅草「飯田屋」

夏はどぜう。

食べ歩き , シメご飯 ,

「6月ってえのに、なんだこの暑さは」。
「おめえがさっきから、暑い暑いって言うから、余計に暑くなるじゃねえか。たまには涼しいねえとでも言ってみろ」
「バカ言ってんじゃねえ。もうすぐ昼時だ、なんか冷えもんでも食べるかい?」
「冷えもん? いや、こういう日こそ「どぜう鍋」よ」。
「いいねえ。じゃあ、合羽橋通りの飯田屋がいいやな」。
「そう。飯田屋。あそこの生形の麻暖簾をくぐったとたん、暑さが吹っ飛ぶてえもんだ」。
「さあ着いたぞ。酒は何にする? まずはビール? バカ言っちゃいけねえ。ここに来たら選択肢は一つ。菊正宗の樽酒のぬる燗よ。すいません、ぬる燗2本」。
「夏なのにぬる燗だなんて、おかしくねえか?」
「何言ってんだか。夏だろうがなんだろうが、どじょうには、ぬる燗以外は許しません。おっ来た来た。マグロのぬたで、こいつを迎え打とう」。
「ぬたいいねえ。江戸味噌のこっくりとした味わいで燗酒を呑む。たまらねえや」。
「だろ? おっとまずはひらきの鍋だね。夏だから子がいっぱい乗ってらあ。
「うまそうだね。早速いただこうじゃねえか」。、
「ちょっ待て。これだからとうしろはダメなんだ。こいつは生だからね。まず沸騰するまで待って、それから裏返し、ネギをたんまり乗せて、また沸騰させた頃が食べごろだあ。皿にとったら、山椒をかけて、たべるんぢぞ」。
「おおこいつは、燗酒に合うねえ。たまらねえや」。
「すいません、お姉さん。ザクおかわり。こうやってなあ。ネギをたくさん食べるといい塩梅よ」
「なんかどじょう鍋というより、ネギ鍋てえ風情になってきたな。そろそろ丸もたべねえか」。
「いいねえ。丸を2人前」。
「おっイキのいいどじょうさんがやってきたねえ」。
「こいつはちょっと煮てあるからな。ぐらっときたら食べようじゃねえか」。
「おっとこいつは、骨が少し当たって乙だねえ」。
「おおよ。開きもいいが、やはりどじょう鍋は丸だねえ。野味って言うのかい。ほんのり苦味があるのがたまんねえ」。
「締めはなんにしよ」。
「締めはなんにしよって、決まってんだろ。白いおまんまにどじょう汁。締めはこれしかねえ」。
「おっ、汁はさっきと味噌が違っって、甘めだね。こちつで燗酒もいいねえ」。
「たまんねえ。どじょう汁で燗酒一本行くね」。
「ありゃ、どじょう汁つまみで飲んじまった。白いおまんまだけ残っちまった」。
「弱ったねえ。そうだ柳川頼むか」
「おお湯気をあげて柳川がやってきた。こいつをおまんまにかけてと。一気に書き込もうじゃねえか」。
「ああうめえ。やっぱ夏はどじょう鍋に限るねえ」。