銀座天丼恋歌4 <天一>

食べ歩き ,

「天一」に出かけてみよう。

堂々たる丼で出される「特製天丼」は、4200円(2016年、2025年は6000円)。蓋を開けると、食欲をくすぐる油の香りに交じり、柚子がふわりと香る。

立派な車海老が二尾、キス、小海老かき揚げ、アスパラガス、椎茸という布陣である。

なにより油の香りがいい。

通常よりしっかりと揚げられた天ぷらは、丼つゆに潜らす際に、ジュワッとつゆを弾き返す音が立つ。

この音を聞いたらご飯を盛る。

このタイミングが肝要で、おいしい天丼を生み出すためには、揚げる職人と、ご飯をよそう仲居さんとの連携が欠かせないという。

さあどこから食べようか。

まずは海老から行こう。

海老の甘さはご飯を呼ぶ。

ゆえに天丼は、海老から始まり、海老で終わるのが正しい。

一口、二口。引き出された海老の甘みを舌に宿したまま、すかさずご飯を掻き込む。

むむ。ご飯がうまい。

甘辛く濃いつゆにまみれながら、米の甘みが海老の甘みと呼応して、顔がゆるゆるにやけていく。

さあ、お次はどの種を攻めようか。悩みを瞬時に整理し、組み立てる。

私なら、海老→椎茸→かき揚げ→キス一口→アスパラガス一口→かき揚げ→キス→アスパラガス→海老と行く。最後の海老を際立たせるため、アスパラガスを挟むのがコツだ。

後は丼の底に意識を集中し、一心不乱に掻き込む。箸を持つ手を加速させ、疾風のごとく食べ終える。

気がつきゃ丼は空っぽで、底には米粒一つ、汁気一つさえ残ってない。

腹は膨れるが重たくなく、食後はなぜか清清しい。さっぱりとした気分で「ごちそうさま」。

これぞ自然に微笑みが湧く、天丼を春風にするお作法である。