「うまいっ」。
一口食べた瞬間に、不覚にも呻いてしまった。
目の前にいる板長が微笑んで、「ありがとうございます」という。
私は何を隠そう(隠すつもりもないが)「ポテトサラダ学会会長」である。
今まで、多くのポテトサラダを食べてきたこの私だが、思わず呻いてしまった。
芋はほぼ全潰れで、どこまでも滑らかである。
芋とマヨネーズは、仲睦まじく馴染んでいて、まろやかな調和が心を撫でる。
胡瓜もは入っておらず、柔らかく茹でた人参が、彩りとして極少量と、僅かに玉ねぎが入っているのだが、そのシャキリとした食感が、このポテサラの滑らかさを際立たせている。
茹で卵が添えられていたので、千切り、混ぜてみた。
それもいい。
だが混ぜない方が、いい。
芋とマヨネーズの関係を、横恋慕してしまう。
私のポテサラ史上、間違いなく五本指に入るだろう。
見目麗しく、淑女のポテサラと言ってもいい。
だがこのポテサラが、もう二度といただけないかと思うと、やるせなく、悲しくてたまらない。
赤坂「口悦」にて