荻窪「有いち」

たかがかぼちゃの煮物。

食べ歩き ,

「カボチャがおいしい」
冷たい炊き合わせをいただいていて、思わず呟くと、ご主人は嬉しそうに微笑まれた。
硬くもない。柔らかくもない。
カボチャが、カボチャとしての尊厳がある固さに炊かれている。
歯がすっと入っていくのだが、細胞を断ち切る感覚がある。
八方出汁の味は浸透しているのだが、かぼちゃの甘みと馴染んで、決して出過ぎていない。
表面は一ミリもデンプン化しておらず、生で切った時と同じ、きりりとした断面がある。
たかがかぼちゃの煮物である。
しかしたかがかぼちゃの煮物の本質がわかって、正しく、一点の緩み無き味わいに仕立てる料理人は、そう多くない。
こうした煮物を食べると、背筋が伸びる。
「ありがたい」という気持ちが、体に満ちていく。
荻窪「有いち」にて