皿の上は、ほぼそら豆だけである。
実に潔い。
食べれば、茹でたてより香りが高く、焼きそら豆より甘い。
つまりどのそら豆料理よりも、香りと甘みが強く、心が奪われる。
しかも味は淡く、塩味も薄いというのに、白いご飯が進むので困ってしまう。
これもこの料理が、そら豆の魅力を、最大限に引き出しているからであろう。
鞘から出したそら豆の薄皮をむいて軽く茹でる。
そして落花生油で炒め、鶏のスープを何回か足しながら、豆のでんぷん質でとろみをつけ、最後に青ネギをかけて完成である。
こう書くと、実に簡単そうに思える。
だが、半分潰れた豆と丸のままの豆が混在していて、潰れたものは舌に広がって甘みを、そうでないものは、ほっくりとした食感で楽しませる。そのバランスが見事なのである。
店の創業者は王さんは、上海出身で、家に料理人がいた富豪の家に育った。
その家庭料理を再現したという。
「本当に美味しいものは家庭料理の中にある」。
この料理を食べるたびに、その言葉を噛み締める。
新宿「シェフス」
空豆
旬は4月~6月。古代文明を支えた世界最古の農作物の一つ。原産地は西アジア、アフリカなど諸説あり、エジプト人や豆板醤をそら豆から作る中国人に愛される。サヤが天に向かって伸びるように生えるので”空豆“や”天豆“、 またサヤがカイコの形に似ているので”蚕豆”という字が使われる。一つの鞘に、大きさのそろったまめが三つはいっているのが上質とされる。