「札幌で一番お奨めのお寿司屋さんはどこですか?」よく人から聞かれる
近年札幌も、東京同様にすし屋が増え始め、市内には500軒以上のすし屋があるという。
以前は、鮭、ホタテ、イクラ、蟹、鮑、ホタテといった、典型的な北海道の海産物を中心としたすし屋さんばかりで、江戸前の仕事を施したすし屋は無かった。
しかしすすき野の「○鮨」や「すし善」などが、鮑を生でなく蒸し鮑にしたり、コハダを本州から取り寄せたり、水ダコではなくマダコを煮て使う等の酢飯に合う仕事を始めて、徐々に広まっていった。
お奨めは、前者の他、北海道らしい食材を楽しむなら、「すし処さっぽろ」。
江戸前なら「和喜知」。
ミシュランの星つきを試したいなら「田なべ」。
全国から取り寄せた魚を食べたいなら「しもくら」。
地元の魚介を、熟成させた他には無い鮨を廉価で食べたいなら、「鮨ノ蔵」。
完全個室、その人たちのためだけに握ってくれる贅沢を味わいたいなら、「すし善別館」といったところを、お奨めする。
しかし何と言っても一番といわれるなら「鮨一幸」だろう。
店主工藤順也さんは35歳。実家はすし屋で.小さい頃から握っていたという。
しかし店は郊外にあったため、倒産寸前まで経営が苦しくなっていた。
彼は東京中のすし屋の名店を食べ歩き、ソムリエの資格も取り、新たなすし屋を目指す。
そしてその仕事が徐々に地元の名士等に認められて人気のすし屋となり、1年半前に札幌市内に移転した。
その模様はTBS系列「情熱大陸」でも特集されたので、ご存知の方も多いだろう。
その独自のスタイルを紹介しよう。1番目のつまみは、明石のあまてがれい。
まこがれいの希少なブランド魚で、押し寄せるようなうま味がある.次がさっと茹でた、舞鶴の鳥貝。面白いのは、「鳥貝は内側がおいしいので」と、開かないでウロ(肝)をつけたまま出す。確かにほろ苦く甘い肝と食べる鳥貝は、別種の味わいがある。
次が名物鮑。
特製のツボの中で蒸し焼きした鮑は、驚くほど味が濃く、海の豊穣を伝える。
次のキンキは、焼くと力みなぎる味になるが、引き算してしゃぶしゃぶ出す。
こうすると品がでて、色つやが滲む。
握りで面白いのは、シャコ。シャコが浜茹でされるのは、自らの酵素で身を溶かしてしまうのを止めるためで、美味しくするためではないということに気づき、時期には毎朝7時までに行って、生きている雌のシャコを買う。
そいつを酸素を入れこむ水袋の中に入れて生きたまま店に持ち帰り、食べる寸前に茹でる。
茹でるといっても卵を半熟状態にする。
こうすると卵は甘く、ほの甘くしっとりとした身にソースの役目を果たして、味を持ち上げるのである。
その他日本酒で湯引きしたカスゴ(鯛の子)、肝とヒモのダシの中で、半生に茹で上げ、手でほぐして握られるホタテなど、独自の工藤世界に魅了される。
予約は至難だが、ぜひ挑戦していただきたい。