続いちご煮
いちご煮の美味しいのに、出会ったことがない。
前回そう呟いたら、次の日予約していた料理屋に電話してくれ、いちご煮が出された。
蓋を開けると、ウニの巨峰が出現した。
これでは、命名理由の「朝靄に霞む野いちご」ではない。
朝靄から顔を出した、ウニ坊主である。
同席した八戸の通人も「わっなんだこのウニ」と、叫んでいたから、異常事態らしい,
朝靄に霞むウニは、火が通っているので、生の香りや甘みや、溶けるような食感に乏しい。
だがこれは、しみじみとおいしい鮑の出汁と鮑の身に、生のウニがこれでもかと迫ってくる。
汁を口に含み、ウニを舌の上に乗せる。
体に染み入る鮑の滋味に、ウニの豊満な甘みが、ゆっくりと溶けていく。
アワビ汁を少し吸って、色気も増している。
これはうまい。
帰り際ご主人に話したら
「いちご煮は、“煮”であって、いちご汁でも、いちご椀でもないんです」。
そう言って、誇らしげな顔をされた。
大量にウニがとれる、八戸ならではの自負である。
八戸「銀波」にて。