「酸菜火鍋」

食べ歩き ,

今年は三つ甕に漬けて、一つダメになったという。
「華都飯店」の白菜漬けは、大甕に白菜を丸ごと突っ込んで、塩も使わず醗酵させる。
キムチや糠付けのように、醗酵を促すものがないから、非常に不安定で、時間もかかる。
ただし出来上がった白菜漬けは、塩が舌に当たらず、酸味が優しい。
白菜の甘味と酸味が抱擁しあっている。
そんな漬物だ。
これが名物「酸菜火鍋」となる。
本場では、鹿や猪肉を入れて食べ、白菜が消化剤の役目も果たすのだという。
しかしここでの主役は白菜。
白菜が溶けぬよう炭火を使い、
牡蠣や渡り蟹、海老や高野豆腐も脇役、鳥と干し貝柱と昆布のスープも脇役に回る。
食べても食べても飽きない。
余韻の酸味が、酸味を欲し、食欲を喚起し、あともう一杯、もう一杯。
よし今度が最後の一杯、いやもう一杯と、
おかわりを重ねていく。
そのうち人は気付くのだ。
もはや酸っぱいのではない。
酸がうまみに変化しているのだと。
料理は科学である。
しかして、人智が及ばぬ発酵食品は、厳然と存在し、人間を翻弄するのである