存在感があるのに

食べ歩き ,

存在感があるのに存在がない。
その肉団子は、食感という気配を消していた。
歯を当てた瞬間に、ふわりと歯が吸い込まれる。
よく来たねと、いたわるように歯を包み、ほろりほろりと崩れていく。
溶け合った豚肉の甘みとスープのうま味が、舌の上をなめらかに滑る。
もはや団子ではない、豚肉のムースである。
豚肉だけを使った団子を、蒸し、一晩スープに漬け込む。
そして翌日調理する。
こうして、そのやわな体にエロスが宿り、僕らの心を骨抜きにする。
大井町「萬来園」の名物肉団子。