閑雅というのだろうか。
新橋「ひろ作」の料理は、静かに美しい。
蟹や鮑、寒ぶりが登場しても、「どうだっ」という気負いがなく、しみじみとしたおいしさ宿った品位がある。
外子をゼリーにしてかけたセイコ蟹は、嬉しそうにはにかんでいたし、
ふぐの白子焼きを飯蒸しと合わせたお凌ぎは、微かに紫蘇が効いて、白子の甘みとご飯の甘みに堕落していきそうになる心を刺激する。
地元で食べるのとそん色ない上質な蟹は、焼かれ、香ばしい香りをまき散らしながら登場する。
蟹酢に浸けずともそのままで、透き通った甘みを舌に滴らせて、顔を崩し、味噌と蟹の身を合わせて甲羅焼きにしたものは、盃を乾かすことができなくなる。
そしてブリのしゃぶしゃぶは、ブリの滋味と血合いの酸味に、みぞれの淡い甘みが降り落ちて、冬への感謝が湧き上がる。
満面の喜色を浮かべて背筋を伸ばし、「ごちそうさま」と箸をおけば、「ありがとうございます」ご主人は優しい笑顔で答えてくれた。
そして
「雪にならないようですね。今朝は今年初めて、雪の匂いがしました」。と、静かに笑う。
久々に聞いた「雪の匂い」という言葉を噛みしめながら、季節に敬意を払うご主人の心根の味わいを、何度も何度も反芻した。