この日のベストだった。
「搾菜」と一文字だけ書かれた料理は、胡瓜、ネギ、搾菜の和え物である。
三者が同幅で切られているだけでなく、いかにキュウリやネギのアクをのぞくか、搾菜は冷たくしたボウルの中で和え、ごま油や塩の量は的確で、搾菜の量もこれ以上でも以下でもない精妙さが貫かれている。
だからこそ味が澄んでいる。
胡瓜とネギ、搾菜はそれぞれの持ち味を生かしながらも、どれ一つとがることなく、まとまっている。
存在感はあるのに、球体の味なのである。
一つとして高級食材は使ってないのに、人の心を揺さぶることのできる料理である。
切る。味つける。和える。
すべての仕事に最善と細心を貫いた清い料理である。
シンプルな料理にこそ、料理人の誠実が現れる。
恵比寿「わさ」にて
シンプルな料理にこそ、料理人の誠実
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