今回は、パスタ料理、「トンナレッリのチョチャーラ」をご紹介します。
まずパスタのトンナレッリですが、これはアブルッツオ州の名物でもあるキターラのことです。キタッラ(イタリア語でギター)と呼ばれる弦を張った器具の上に、薄く伸ばしたパスタ生地を置き、麺棒で押して切った、長細い麺ですね。
キターラを食べるのは、アブルッツオと境にした地方です。アマトリーチェの先がアブルッツオですから、あの辺りもトンナレッリと呼んでいます。ローマの方言で、名前が変わるというだけでまったく一緒です。
本来は「トンラレッリ」ですが、ローマのなまりでトンナレッリと呼んでいます。
ローマ人のシャレかどうかはわかりませんけれど、四角いパスタなのに、トンラレッリは元々、「丸い」という意味なのです。
恐らく、同じ名前を使うのが嫌だったのでしょう。キターラというとアブルッツオのイメージがあるので、自分たちで名前をつけて、トンナレッリになったのでしょうね。
マッケローニ・アッラ・キターラとかスパゲティ・アッラ・キターラとか、全国的には北のほうが有名です。。
うちにある器具は、一番細くてトンナレッリにならないので、きょうは包丁で切ります。
あの器具を使うのはキターラだけですね。南では筋の入った麺棒でのすようにして形づくるものがあります。それはプーリア地方にありますね。プロッコロといいます。
あとは、タリオリーニ用のパスタマシーンで、幅の似たのがありますから、厚めにしてパスタマシーンを通せばできます。今はキターラも乾燥品が多くなりました。昔は家庭でも小麦粉を使ってたんです。今は家庭用にもセモリナ粉を二度挽きした細かいのができましたから、みんなそっちを使ってコシの強いのを作っています。僕らがいたときは普通の小麦粉を使っているところが多かったですね。
コシを出すため、油を少し足していました。
あの器具は昔、アキュラという州都で作られていて、ピンと張った弦を指ではじいて下へ落とすので、それがギターみたいだというのでキターラと呼んだのです。
彼らにすると、あれで作らないとキターラではないわけです。包丁でカットしたものはキターラではないと(笑)。
今はお土産用にありますけれども、たいてい使い物にならないです。
アブルッツオだと煮込みも羊で作ります。羊のラグーでキターラというと、それが定番です。
魚とかを使うのは、最近のことですね。アキュラは山の中の町ですから。
南部も手打ちのオレキエッテにしても、山の中ですから、元々はみんなトマトを使った煮込みソースです。
魚介系が多くなっているというのは最近の傾向です。アクアパッツアのソースでやるとか、マカロニを魚介で和えるというのはあまりなくて、ナポリでも最近のことですよ。
また、オレキエッテをブロッコリーでやるのは、あの辺はチーマ・ディ・ラーパ(CIMA DI RAPA)の産地だからです。
トンナレッリのソースといえば、ローマでは、カーチョ・エ・ペペ(cacio e pepeペコリーノと胡椒、バターによるソース)です。
あとグリッシャ。グリーチャ(gricia)とも言いますが、アマトリーチェの先にグリッシャーノという町の、グアンチャーレとペコリーノを使ったソースです。
言ってみれば、トマトの入らないアマトリチャーナですね。アマトリチャーナ・イン・ビアンコ(amatriciana in bianco)という別名もあります。だから彼らは、アマトリーチェの人間はうちの真似をして、ただそこにトマトを入れただけだと言うわけです。
今回の「チョチャーラ」は、チョチャリア風という意味です。昔の呼び名で、ローマの南にあるチョチャリア地方のことです。
中心はフロジノーネ県。どちらかというと山の中なので産業は林業中心で、、隣がアブルッツオです。昔から住んでいる人たちが、山歩きに便利な「チョーチャ」という編み上げ靴をはいていることから、その地方の人間を、「チョチャーロ」と呼んでいるんです。
チョチャーラというのは、そこのイメージで作ろうと、ローマのレストランが命名しました。森林地帯でポルチーニがたくさん採れるので、ポルチーニは必ず入れます。
メニューには一年中載せているので、旬にはフレッシュを使いますし、ない時季には乾燥のものを使うのが基本です。チョチャリア地方はポルチーニの産地で、ローマの市場にはみんなそこから来ています。やはり、ポルチーニもキノコですから、木が多くないと育たないのです。
チョチャリア地方でもトンナレッリは食べますが、ローマで言うところのチョチャリア風というより、アブルッツオ風にしますね。
トマトにニンニクと唐辛子を利かせたトマトソースで、パンチェッタか何かを入れますから、アマトリチャーナに近いです。
場合によっては仕上げにスカモルツァ(scamorza)チーズを少し入れます。スカモルツァもアブルッツオでは、けっこう食べられます。料理の名前はアバウトです(笑)。
ローマでは、どちらかというと観光客向けで、キノコと生ハムとグリーンピースを入れることが多いですね。外国人観光客向けには、どの店も生クリームで仕上げて、地元の人間のときには、スーゴ・ディ・カルネ(牛肉の旨みを濃縮したソース)というか、牛肉の煮込みのソースを加えます。
スーゴ・ディ・カルネといっても、ソース用のフォンドヴォーではなくて、煮込んだときの煮汁です。ローマではガルフォラートというクローブの香りの利いた牛肉の煮込みがありまして、そのソースで合えます。
ただし、味が濃くなるのでそんなに大量には使いません。ちょうど最近「ローマ風牛肉とセロリの煮込み」を作ったので、その煮汁を使います。
あと、フェトチーネのローマ風にも、スーゴ・ディ・カルネとして、煮込みのソースを使い、生ハムの代わりに鶏のレバーや砂肝とかの鶏の内臓と、乾燥のポルチーニを使って仕上げます。
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肉の煮込みというのは、塊肉に背脂を差し込んで、クローブの香りを利かせて、香味野菜と赤ワインで煮込むのが、一般的ですね。
トマトはペーストを使うか、僕はホールを使って煮込んでいきます。
野菜は香味野菜を入れて、あとで濾します。
ローマの料理は、クローブの香りをつけるのが特徴ですね。
また、どこの店も、ソースを多めに作って、味足しに煮込みの煮汁を使います。トリッパのローマ風煮込みでも、トマトだけで足りないときはそれを加えてコクを足します。
家庭で作った場合は、煮込みの煮汁を使って、大体パスタですね。肉は肉でメインとして食べ、その前に煮汁を絡めたパスタ。イタリアの煮込み料理は、肉でも魚でも大体そのパターンです。
煮込み時間は、おおよそ三時間ぐらいです。煮込みは、硬いところを使いますし、その方が味もよく出ます。
向こうでは、すねや腿より、肩肉を使いますね。家庭ではその方が早く柔らかくなりますから。向こうの牛というのは、日本みたいに脂がのっていません。
今回のチョチャーラ風は、生ハムと乾燥ポルチーニと、グリーンピースです。
ローマ料理は紛らわしいんです。ツナとポルチーニを入れてトマトで仕上げる、「ボスカイオーラ(boscaiola)」というのもあります。
「アラビアータ」も本来、アマトリチャーナにポルチーニを入れて、唐辛子を利かせた料理でした。ところが、似たような料理が沢山あるので、アラビアータの辛い部分を前面に出して、作られるようになったのです。
今日本では、アラビアータにチーズはかけませんが、元々は、仕上げにペコリーノを使っていました。僕らがいた時代は、当たり前のようにペコリーノをかけていましたね。
アラビアータは必ずペンネです。オリジナルを出したお店が、ペンネのために付けた名前だからです。ほかのお店がまねをしても必ずペンネを使っています。
このペンネ以外に、アラビアータという名前の料理はありませんし、ペンネのアラビアータという言い方しかしません。日本ではスパゲッティ・アラビアータもありますが、イタリアにはないです。ペンネのアラビアータは、オリジナル料理の一つなのです。
前はペンネも、筋がない方を使っていました。だから今でも筋の入ったペンネのアラビアータは、あまり好みません。もちもちというか、生地の厚いのは嫌ですね。ツルッとした食感で、コシがある方がおいしいです。