イタリア・ピエモンテ州のリストランテ「ピステルナ」で、初めて日本人としてミシュラン一ツ星を獲得した堀江純一郎シェフは、春の開店に向けて全国の生産者を巡っている。
そこで見つけたのが15種類のジャガイモを作っているという北海道の若い生産者。種類の多さだけでなく、薄利多売のジャガイモ業界の逆を行き、おいしくなるまで3度の保冷仔でじっくり寝かして出荷するのだという。
そのジャガイモ10種類をつかい、前菜からドルチェまでの「ジャガイモ定食」を試作するとの話を聞きつけた9人の食いしん坊が、マイミク「トリッパ一号」の自宅に集結した。
丸いのあり、小さいのあり、細長いのあり、紫あり、赤あり、粘質あり、粉質あり。個性豊かなじゃがいも君。
紫のインカパープルから時計回りに、キタアカリ、レッドムーン、コロール、インカのめざめ、ドロール、チェルシー、メークイン、そして中央に男爵。
1.ロシア風サラダ(キタアカリとチェルシー)
一見ポテトサラダ風であるが、恐ろしく手がかかっている。小さな賽の目に切った、熱に強いキタアカリのさっくりとした食感と粘質チェルシーのつぶれた食感の対比である。キタアカリは酢とクローブ月桂樹と塩と水で煮て、三日間寝かせ、それぞれに下ごしらえして別々に茹でた人参などの野菜、フランス産のケッパーと塩漬けアンチョビと合わせ、茹でてつぶし自家製マヨネーズで合えたチェルシーと混ぜたもの。芋の甘みに酢が優しく染み渡っていて、なんとも穏やかな気分になる。
2.ヤリイカのマッシュポテト詰め(ドロシー)
エビをにんにくで炒め、ブランデーでフランべし、マッシュした少し粘質のドロシーと合わせ、イカに詰めソテー。芋とイカの奇跡の出会い!!
3.塩鱈のソテー、酸味を利かせたバャーニャカウダソース じゃがいも添え(男爵)写真左
茹でた男爵にケイパーを混ぜ、ソテーした鱈に赤ワインビネガーを利かせたそーすをかけたもの。実に美味。実に痛快。
4.生ハムと牡蠣、豚の頭を浮かべた、ジャガイモのズッパ(メークイン)
月桂樹とにんにく、下仁田ねぎをスゥェし、メークィンの薄切り入れて肉のフォンを入れて茹で、パルミジャーノで風味付けしたポタージュ状のスープ。口にいれた途端にゆっくりと広がっていく芋の甘み。そこへ豚の頬肉の食感、生ハムと牡蠣の旨味がアクセントしていく幸せ。
5.庄内豚すね肉のロースト ジャガイモのロースト添え(北海アカネ)写真中央
レモン皮、セージ、タイム、にんにく、イタリアンパセリで風味付けして、香味野菜と共に何度も何度も様子を見ながら、仕上げた美しきロースト。噛めばしっとりと滲み出る豚肉の甘い滋味。そして傍らには、ローズマリーとタイムの香りを絡めてからりと焼きあがった、ほくほくの甘いじゃがいも。えへん。
6.牛ほほ肉の赤ワイン煮 ジャガイモのとゴルゴンゾーラチーズのグラタン(コロール)写真右
なんとバルベラを三本も使って長時間煮込み、三日間寝かせた(ご本人は一週間は寝かせたかったとのこと)、しっとりと口の中で崩れ、肉自体からも味が舌に乗ってくる上出来のワイン煮。そして粘質で甘いコロールを、ゴルゴンゾーラピカンテと生クリームで作ったソースと重ね焼したグラタン。ああもうやめて。
7.シナモンムースとジャガイモのきんとん風(インカの目覚め)
甘い甘いインカの目覚めを、つぶしてバニラ、八角、レモンの皮で香り付けて干しぶどうとあわせたドルチェ。
8.焼き菓子 チョコレート
堀江シェフの料理は、酸と塩をしっかり利かせ、素材の味を際立たせようとする、日本人ではまれな料理人である。それゆえに弱い素材では成り立たない。今回は、みずみずしく強い味わいのじゃがいもとがっぷり四つに組んで見事に昇華していた。それにしても、それぞれの芋の特性を見抜き、リスペクトして長所を引き出した七皿。素晴らしき料理人です。