美人女将が打った蕎麦

食べ歩き ,

近所に住む人が羨ましい。
この夜、一番素晴らしきは、4日間熟成させたという宇和島のイサキのお造りで、ほら見てこの色艶を。
噛めば、勇壮なイサキの味が膨らんで、酒を恋しくなるじゃありませんか。
甘みがにじむマコガレイの刺身や鹿肉のどて煮など、酒を飲めと言われる肴が出て来たと思いきや、山形のホワイトアスパラガスやトコブシと蓴菜の冷やし茶碗蒸しで涼を運び、心を和ませる。
しかしここで油断しちゃいけないですぜ、旦那。
続いて現れしは、なんとヒレカツである。
東京とんかつ会議主催メンバーと知っての、とんかつである。
これが火の通しが完璧で、油切れも肉もいい。
おやここはとんかつ屋かい? なんて思わせる出来に感心していると、トキシラズと紅鮭お茶漬けが出されて、涙する。
ふうっと息を抜く暇もなく、老練なる寿司職人が握った穴子の握りが目の前に。
もうこのうまいもの攻撃は、なんなんだい?
しかしまだ最後のシメが待っていた。
最後は、美人女将が打った蕎麦である。
福井県丸岡の在来種ともう一種の食べ比べ、ずずっと勢いよく手繰れば、これもそこらの本格蕎麦屋と肩を並べる香りの高さ。
草のような香りがあって、奥底に微かな甘みで、打ち具合もいい。
一体ここはなんの店?
いやあここは下町、浅草の北。
うまいもんを好きなように好きなだけ食べる、お店なのさ。
6月「浅草じゅうろく」にて。