ブロデッドは、静かに海の豊穣をたたえていた。
赤茶色の汁を飲めば、海に生きる魚介たちの滋養が、輝き、叫び、渦を巻く。
優しいようで深奥なうま味があり、丸いようで人間の理解を超えた剛胆がある。
飲めば飲むほどに、海の底に沈潜していく。
そこへ同じマルケ州のラクリマ ディ モッロ ダルバを流し込む。
海に面した地方でしか育たないというラクリマ(涙)というぶどうを使った赤ワインである。
淡いタンニンとじんわりとした果実味が、海のスープと溶け合い、高揚感が生まれた。
海風にさらされながら海を見て育ったブドウは、魚やエビや貝と舌の上で出会い、情を深めていく。
そして喜びの涙を、ひとしずく流すのだった。
「オステリア・デッロ・スクード」マルケ州の料理は、別コラムで