バンコク満腹ツアーVOL1。
記念の第一夜正餐は、私がどうしても行きたいとだだをこねた店である。
そこは「えっ、こんな店があったとは」と、ガイドも驚いた、マニアックな店であった。
シーロムの西南、広い道路に面して三軒の屋台風店舗が並んでいる。
その一軒が、「ラチャナントゥリー」にて出迎えたのは、ずらり並んだ子豚ちゃんの串刺しである。
そう、子豚丸焼き専門店なのです。
豚の丸焼きは、タイ語で「ムーハン」という。
脂を落としながらじっくり焼き上げ、皮下の脂や肉も食べるのが「香港風」の九百バーツで、骨付きのまま皮をパリンと焼き上げ、後で肉を別に調理する「タイ風」が八百バーツとなっている。
麺一杯の平均が三十バーツなので、超高級料理であるが、日本ではどんなに安くとも三万円。はする。
つまり十分の一以下の値段である。
そうとなりゃ、当然二種類注文だあ。
まずは「香港風」が運ばれた。
頼めば兄ちゃんが、あらよっと子豚の串刺しを炭火にかざし、くるくる回して焼き始める。重労働ながら、この道十年ということで、涼しい顔で焼いている。
焼きあがったら、中国料理の分厚いまな板に置き、中華包丁で鮮やかに切り裁き、元の形に戻して飾りつける。
仕上がりし「香港風」は、皮はパリッと香ばしく、皮下の脂と肉はふんわりと甘く、その対照的な食感に箸が伸びる。
酒が進む。
東京で食べれば一切れだもの。
それを何切れも何切れも、胴体だけでなく、腕も足も、頭も食べちゃうのである。
これぞまさに「食らう」の真髄であり、食欲望の体現なり。
「香港風」をきれいに食べつくし、余すことなく昇天していただいた後、「タイ風」まで時間があるというので、様々な料理を注文した。
歯ごたえは空心菜に似て、噛むとほんのり苦い味が広がる、「ヨーマラ・苦瓜の芽の炒め」八十バーツ(270円)。
白子のような食感の豆腐に春雨の食感、海苔の香りと香菜の香りの出会いが刺激的な、ピリ辛の豚挽肉入りスープ、九十バーツ(300円)。
甘酸っぱく香り高い、辛いソースをつけて食べる、「イカ焼き」、百六十バーツ(540円)。
魚型のアルミの器で姿蒸しにした「スズキのマナオ(ライム)蒸し」は、身がとろりと甘く、なによりも酸っぱく辛い蒸し汁が素晴らしい。
この店はただもんじゃないぞと喜んでいるところへ、「タイ風」が登場した。
北京ダック風にパリパリに焼き上げた皮だけをそぎ落とし、長方形に切って、胴体にジクソーパズルのように合わせて飾りつけする。
艶やかに輝き、美しい。
食べれば「パリンッ。カリッ」と、薄皮が痛快な音を立て、弾けていく。
こりゃあビールが進むわい。
ほのかに甘い皮に、一同破顔一笑す。
皮を食べ終えた後に第二の楽しみが待っていた。
残った肉をどう調理するか、指示を出す。
一つは、バジル炒めにし、一つは、にんにく黒胡椒揚げとしてみた。
辛く炒めたバジル炒めを一口食べ、思わず「ご飯」を注文する。
かけて食べれば、ああ止まらない。
それにも増して止まらぬは、揚げの方である。
こりゃあ、名古屋名物手羽先唐揚げも逃げ出すおいしさよ。
たっぷり利いた胡椒の刺激ににんにくの香り、それに豚の甘みが加わり勇気百倍、食欲増進。骨までしゃぶりつくしながら、再びビールに突進するのであった。