今まで数々蟹の炊き込みご飯を食べて来た

日記 ,

今まで数々蟹の炊き込みご飯を食べて来た。
しかし楽の器に入れられたこのご飯は、次元が違う。
かにみそ色に染まっているが、ミソは、香りだけが漂うだけである。
ご飯のたくましい甘みと蟹の繊細な甘みが、完全な一つの球体となっている。
境目なき、新たな天体がある。
微塵もいやらしくなく、どこまでも清らかである。
それでいて余韻が長い。
喉元に落ちた後も、春の陽だまりのように蟹とご飯の甘みが居座っている。
ズワイガニの大らかさが、僕の味覚を暖め、体を弛緩させる。
食べるごとにカニと米が作った布団の中にに引き寄せられる。
安らかに過ごしなさい。
そうご飯から言われた。
試しに、蟹ご飯を口の中で7回ほど噛んで、黒龍を流し入れてみた。
その途端、口の中で波しぶきが舞った。
海の中にいた。

米を、アルデンテに炊き上げた状態で、カニの身と味噌を入れ、かき混ぜ続けながら火を入れていったという。
そうしてこそ、米と蟹は同体となり、慈愛に満ちた共鳴を奏でる。
素晴らしさを伝えると、ご主人は、
「懸命に混ぜ込んでいると、なぜか目の前が紫になっていくんです。死ぬ気でつくりました」と、笑われた。
「大夢」の12月のご飯。